高松伸|1995|鳥取|
前日は、米子市の皆生温泉 東光園で過ごした。私の心の中は、もう完全に、キクタケ・イズ・ベスト(東光園の設計者が菊竹清訓)。開始早々の15時チェックイン。ただ、竣工後57年経ったせいで、建物の様子はかなり草臥れている。最盛期の輝きは、もうない。フロントマンが、建物見学をしにきた宿泊客だと察して、自由に館内見学していい、と許可をくれた。さらに、近くのオススメスポットも教えてくれた。
最終チェックアウトのギリギリまで過ごし、最初に行ったのは、植田正治写真美術館。植田正治は世界で最も注目された日本人写真家のひとり。植田の功績を収めたこの美術館は自然豊かな大山山麓にある。自転車で40分の距離。街を抜け、田園を抜け、急勾配の坂を抜けて、やっとついた。
まず目に飛び込んできたのは、雄大な大山とコンクリートの四角い箱のコントラスト。建物の外観は、「少女四態(1939)」という植田の作品がモチーフ。写真の四少女が異なるポーズであるように、四つの四角い箱がそれぞれ異なるカタチをしている。室内空間が気になる気持ちを抑えて、外周する。周囲との関係性やアプローチを見て回る。(展示物に興味のある友達と行くと嫌がられるだろう)
すると、カメラを持ったおじさんに出会った。喫茶店を営んでいるおじさんは、レアな椅子を手に入れたので、美術館を背景に写真撮影に来ていたのだ。違う場所では、結婚の思い出写真を撮影している人たちもいた。澄んだ青空と相まってよく映える建築物である。
ようやく、中に入る。一階にあるのは、地域の人が撮った写真の展示室。かなり上手い。二階に上がると、天井が低く、幅の広い廊下のような空間がある。大きな窓があり、天空日射が差し込む。その窓からは、水面に映る“逆さ大山”が撮影できる。が、私が訪れた時は風が強かったので、水面が荒れて、見ることができなかった。
廊下から、四つの部屋へと繋がっている。右端には映像展示室がある。最大直径600mmの世界最大規模のカメラレンズは、レンズだけで総重量245kg。実際の大山をリアルタイムで映写している。ついで、隣にあるのは作品展示室。モノクロ写真がずらりと並ぶ。鳥取砂丘を舞台にした作品が印象的だ。被写体に和装の女性やおかっぱ頭の子供がいる。あの時代あの場所だからこそ撮れた写真である。そして、隣には休憩室ともう一つの展示室がある。休憩室の床は数段分低く、展示室には上階や吹き抜けがあり、さらに、それらを渡り廊下がつなぐことで、目線が変わり、空間がさまざまに変化するので、わくわくしながら見てまわることができた。
建築物を目的に美術館へやってきたが、植田作品は世界で評価されるだけあり、植田調と呼ばれる写真に魅了された。とりわけ、「妻のいる砂丘風景(III)」が印象深い。この美術館は、建物を探検、植田作品を鑑賞、逆さ大山の撮影、澄んだ空気で一息と楽しみ方は来館者によってさまざまである。ぜひ、訪れるなら風のない晴れた日に。
